「赤坂ナイトクラブの光と影 −『ニューラテンクォーター』物語」(諸岡寛司、講談社)ASIN:4062117371
かつて東京赤坂に存在した高級ナイトクラブ「ニューラテンクォーター」に、昭和34年のオープンから平成元年の閉店まで一貫して携わった人物による回顧録。
「ニューラテンクォーター」というと、かの力道山刺殺事件の舞台になったとか、あの大火災を起こしたホテルニュージャパンの地下にあった店だというくらいの認識しかなくて、正直あまりいいイメージを持っていなかったのだけど、この本を読むと、その世界では最も洗練されたクラブだったということがよくわかる。
面積660平方メートルのフロアに300席という広さ。そしてその収容力の大きさゆえに可能になった海外の一流エンタテイナーによる豪華なショー。出演リストを見てみると、サラ・ヴォーン、ポール・アンカ、サミー・デイヴィスJr、ナット・キング・コール、ジュリー・ロンドン、スリー・ディグリーズ、ダイアナ・ロス、トム・ジョーンズといった名前が綺羅星の如く並んでいる。酒を飲むだけでなくちゃんとした食事もでき、そして美貌と知性を兼ね備えたホステスたちが客をもてなす。もちろん料金も最高級。たった2,3時間いただけで大学卒初任給と同じくらいの支払額になったとのことだ。
でもまあ、こういう店をうらやましいとは思わない。ラスヴェガス式のショーを見て、お酒を飲んでホステスとの会話を楽しむなんて、なんというか「旧世代の遊び」ですよね。
それはともかく、著者がこの本で語るエピソードはどれもこれもおもしろい。
三船敏郎、勝新太郎、萬屋錦之介、石原裕次郎といった当時の大スターの「粋比べ」、児玉機関との関係、任侠道の人々の武勇伝、苦労した売掛金の回収、そして力道山刺殺事件の真相などなど。のぞき見的興味をそそられる生々しい話も多いんだけど、けして下世話にならず、むしろ品が良いと感じるくらいの読後感だった。そのあたりは接客業のプロである著者の人柄なのでしょうか。
初代内閣広報官だったという宮脇磊介氏が書いたあとがきにはちょっとびっくり。ロバート・ホワイティング「東京アンダーワールド」(ASIN:404247103X)より凄い内容になることを期待して、この本の執筆を著者に勧めたというのだ。うーん。なんか少しずっこけるな。あれとはずいぶん違いますよ、この本は。
【関連テキスト】
▼ナイトクラブは夢の世界(「SUNTORY SATURDAY WAITING BAR」)
http://www.avanti-web.com/pastdata/19970208.html
オーナー山本信太郎氏のコメントあり
▼力道山刺殺事件(「無限回廊」)
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/rikidouzan.htm
諸岡氏の事件回顧とはかなりニュアンスが違いますね。
ここ(↓)で紹介されている本に描かれているシーンはもっと凄い。まあアレなんでアレですけど。
http://csx.jp/~chirita/column_45_douzan.htm
▼ホテル・ニュージャパン火災(ざ@永田町)
http://www.ne.jp/asahi/sai-kuni/home/town-nagata/sisetu_hotel_nj.html
今は「プルデンシャル・タワー」というビルが建ってるのか。