阿部和重「シンセミア(上)(下)」(朝日新聞社 2003)ASIN:402257870X ASIN:4022578718

Andy2004-07-10

20世紀最後の夏、神の町で何が起きたのか? 占領下の血塗られた歴史と三つの事件が同時多発的に炸裂する現代小説の問題提起作。『アサヒグラフ』『小説トリッパー』掲載に大幅な加筆をして単行本化。(「MARC」データベースより)

 図書館で借りて読んだ。
 読んでいる間、ずっと馳星周「雪月夜」(ASIN:4575233994)を連想していた。田舎町ノワール
 60人を超える登場人物のほとんどが人間の汚い部分・下劣な感情に突き動かされて行動している。町の裏の顔役であるパン屋、レンタルビデオ店主が主催する盗撮サークル、ロリコン趣味を満たすために警官になった男、コカイン吸引で日常をやり過ごそうとする夫婦 etc…。
 おもしろい。でも読み終わった後、確実にいやーな気分になる。特に現実の田舎町に暮らしている人間には。

あらゆる登場人物が己の役割を見失い、いつ発狂してもおかしくないギリギリの日常を生きている様をサーガ劇として描く中、二〇〇〇年の夏にこの町を襲う悲喜劇のすべてが、実は一九五三年アメリカにおける小麦の大豊作に端を発していたという大きなマトリックスが浮かび上がってくる。(豊崎由美 「文学賞メッタ斬り!ASIN:4891946822

 あーなるほど。そういう感動の仕方もあるか。
 それにしても、この小説の舞台となっている「山形県東根市神町」て実在するんですね。架空の町かと思ってた。しかも著者阿部和重の故郷らしい。よくもまあこんなダーティな物語の舞台にしたもんだ。勇気あるなあ。
 そういやこの小説の中には阿部和重自身も登場して、あげくの果てにはボコボコにされるシーンがあるんだけど、それは故郷の人々への彼なりの「お詫び」だったのかも。

【関連資料】
▼「シンセミア」公式サイト
 http://www.sin-semillas.com/

山形県東根市神町周辺の地図
 http://www.mapion.co.jp/c/f?uc=1&nl=38/23/53.581&el=140/23/29.468&scl=250000&grp=all

ブラック・ウフル「Sinsemilla」
 http://www.reggae-reviews.com/blackuhuru.html
 レゲエグループの'80年リリースアルバム。
 「シンセミア」ってのは、人工的に受粉を防いで栽培した高品質の大麻のことらしいけど、意外とこのアルバムタイトルからインスピレーションを得てたりして。