池田浩士「虚構のナチズム」(人文書院 2004)ASIN:4409510533

Andy2004-06-06

あの熱狂はなぜ生まれたのか。第三帝国の根源に光を当てる

文学、演劇、映画、放送など表現に関わる多様な分野で、ナチスはドイツ民衆の意思と感情を動員することに成功した。この秘密はどこにあったのか。著者は、ワイマール時代からナチス時代にかけてのあらゆるジャンルの表現文化を綿密に分析し、あの時代の現場の感性を追体験しながら、ナチス=悪、その文学も劣るといった図式では解けないその熱狂を生み出す秘密について論及する。表現の力とは何か、そして虚構と現実の現場に踏み込みながら、ファシズム・ナチズムに対抗する全体としての思想を追求した、著者畢生の書き下ろし。

 フランス占領時のルール地方で鉄道爆破テロを実行した青年を題材とする戯曲「シュラーゲター」、SA(突撃隊)の連隊旗に染めぬかれた言葉「ドイツよ目覚めよ!」を生み出した”最初のナチ詩人”ディートリッヒ・エッカルト、文学青年だった頃のゲッベルスが書いた小説「ミヒャエル」、突撃隊員ホルスト・ヴェッセルとその英雄化・神話化、頽廃芸術展、そしてレニ・リーフェンシュタールオリンピア」。これらに対する詳細な分析。
 特に、民衆参加劇「ティングシュピール」が、ヒトラーとSS(親衛隊)による突撃隊粛正(いわゆる「長いナイフの夜」)に呼応して終焉を迎えたという話は非常に興味深かった。ただし紹介文にあるような「ファシズム・ナチズムに対抗する全体としての思想」をこの本に読みとることはできなかったけれど。(著者自身も「あとがき」で「本書はナチズムにたいしてはなにが無力かということを、まず明らかにしなければならない−という基本的課題設定によって書かれている。解決ではなく、それを目指した模索が本書の目的である」と書いているから、そもそもそれが目的ではないんでしょう。)
 著者はながらく京都大学で教鞭をとっていた人(現 京都精華大教授)。京大闘争に深く関わった「造反教官」のひとりだったそうだ。


【関連資料】
京都精華大学教授 池田浩士さん 『虚構のナチズム』を刊行中日新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/doyou/text/d127.html
 著者へのインタビュー。
▼ありうべき未来から、今をみつめる---『死刑の「昭和」史』を中心にNGO IMADRのサイトより)
 http://www.imadr.org/japan/interview/ikeda/hirosiikeda1.html
 2000年のインタビュー。この本も読んでみたい。